「僕は、僕は、僕を守るために春河を騙したんだ。僕は……」
大粒の涙を流す一稀の姿を見て、同じように涙した人も多いでしょう。
一稀の生い立ちを考えると、胸が締め付けられるセリフですよね。
第5話は、これまで謎だった一稀と家族との関係が明らかになった回でした。「つながらない」いや、「つながれない」ことの孤独感がどれだけ辛いものなのか、思い知らされました。
しかも、つながれない対象が「家族」ですから。一番身近にいながら、自分だけが遠い存在になっている感覚というのは、どれほどの苦しみなのでしょうか。私には到底、想定できないレベルの苦痛や悲痛がそこにはあるはずです。
はたして、一稀はこの「つながれない」状態から抜け出すことができるのでしょうか?続きが気になって仕方がないですね。
『さらざんまい』という作品のなかで、第5話はターニングポイントになっていると思います。一稀が今まで隠していた一番の秘密がバレてしまうわけですし、これまではありえなかった「カパゾンビ退治の失敗」というイレギュラーな出来事がおこっています。さらに言えば、いつも仲良く欲望搾取しているレオとマブの関係性にも揺らぎが見えてきました。様々な事柄が変化しようとしているのです。
こうしたイレギュラーな事態は「これからお話が転換しますよ」という作り手からのメッセージだと考えられます。今回は、話の転換点であることを意識しつつ、一稀の心情を中心に深掘りしていこうと思います。
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- 『さらざんまい』第5話「つながりたいけど、許されない」のあらすじ
- 『さらざんまい』第5話の考察① はじまらず、おわらず、つながれない一稀
- 『さらざんまい』第5話の考察② 吾妻サラとケッピは同族?
- 『さらざんまい』第5話の考察③ 個人主義のレオと全体主義のマブ
- 『さらざんまい』第5話の感想・ネタバレ考察のまとめ
『さらざんまい』第5話「つながりたいけど、許されない」のあらすじ
一稀は矢逆家に引き取られた子供だった。春河の誕生とともに、一稀は「自分には本当の母親がいる」という事実に直面し、自分だけが家族とつながっていない疎外感を覚える。
時は現在に戻り、春河との約束を果たすために、一稀は久慈を連れて、吾妻サラの握手会の会場に潜入していた。久慈はまず、サラのマネージャーをトイレに監禁する。次に、サラをPR用の写真撮影と称して楽屋から連れ出し、近くの古びた劇場に監禁しようとする。しかし、サラはケッピのような姿に変身し、なんなく劇場から脱出。久慈は何度もサラを閉じ込めようとするが、サラっと脱出されてしまう。
同じころ、握手会の会場では、サラに扮した一稀がファンと握手していた。順番が回り、一稀は春河と握手することになる。春河の「はじめから、おわりまで」という言葉に、一稀は「まあるいえんでつながってる」と答える。事前に約束していた合言葉を言うことができた一稀だったが、そのとき、トイレから脱出したマネージャーと、本物のサラが現れてしまう。どよめく会場。困惑する春河。
マネージャーによってカツラをとられてしまった一稀は、その場から走り去る。「終わりだ」と途方に暮れる一稀。そんななか、新たなカパゾンビが現れる。ケッピは一稀たちの尻子玉を抜き、カッパの姿に変身させる。
一稀、燕太、久慈の3人は、欲望フィールドで、サシェゾンビと闘う。尻子玉を抜き、「さらざんまい」を完了させようとしたそのとき、一稀の尻から尻子玉が抜け落ち、サシェゾンビの身体に戻されてしまう。
カパゾンビの退治に失敗したため、希望の皿がもらえないだけでなく、3人は元の姿に戻ることもできなくなってしまったーー。
『さらざんまい』第5話の考察① はじまらず、おわらず、つながれない一稀
ついに、一稀の女装がバレてしまいましたね。あの瞬間、観ていた私も「おわった」と思っちゃいましたよ。視聴者と秘密を共有することで「バレたら大変……」というハラハラ感を演出することに成功しています。改めて、物語の技法的にもよくできた作品だなぁ、と感心させられました。
さて、技法の話はともかく、なぜ一稀が春河をあんなに喜ばせようとするのか、その理由について少し考えてみようと思います。希望の皿を手に入れるのも、ニャンタロウを奪ったのも、吾妻サラのフリをするのも、全ては春河のためでした。
しかし、第5話の最後で一稀が独白しているように、春河を喜ばせるための行為は、自分を守るための行為でもあったことが判明しました。この一稀の感情は非常に複雑です。もしかしたら、「悲しいのは分かるけど、自分を守るってどういう意味?」と、一稀の気持ちがいまひとつ理解できなかった人がいるかもしれません。
基本的に、一稀を動かしているのは「疎外感」と「罪悪感」の2つの感情だと考えられます。「家族のなかで自分だけ、血がつながっていない」という疎外感。「自分のせいで春河が一生歩けなくなってしまった」という罪悪感。この2つに、一稀は苛まれており、この感情から離れようと必死になっています。
「自分だけが本当の家族じゃない」と思いつつ、一稀は「家族とつながりたい」と思っているように見えます。この矛盾した感情を抱えたまま、一稀は疎外感を埋めるために、吾妻サラのフリをするようになります。春河の好きな人物を演じることによって、一稀は偽物として春河とつながろうとしたのです。
「僕だけ本当の家族じゃないから、つながることはできない」という思い込みと、「春河を傷つけた僕なんかが、つながれるわけない」という強い観念に支配されながら、それでも自分のなかの「でも、つながりたい」という欲望によって「本物ではなく、偽物のままつながる」という中途半端な選択をすることになったのでしょう。
一稀を追いかけた春河が交通事故に遭ってしまったという経緯から、一稀は春河に対して強い罪悪感を抱えています。その罪悪感を解消するために、サッカーを辞め、ニャンタロウを盗んで春河を喜ばそうとしたり、希望の皿で春河の足を治そうとしたりしたわけです。一稀は疎外感と罪悪感から自分を守ろうとしていたと考えられます。
一稀の強い罪悪感は、第1話の冒頭で、すでに示されていました。第1話の冒頭、一稀はランニングをしています。すると後ろから、春河の声が聞こえます。「カズちゃーん!」という声です。その後、一稀はベッドの上で目を覚まします。これは夢だったわけです。
実は同じ描写が第5話にも出てきました。春河が事故に遭う場面です。一稀が本当の母親に会いに行こうとしたとき、後ろから春河が「カズちゃーん!」と言いながら追いかけてきます。第1話の冒頭と完全に重なるシーンですよね。
ここから分かるのは、夢に出てくるくらい、一稀は春河の事故について、強い罪悪感を覚えているということ。きっと、あの夢を一稀は何度も見ているのでしょう。過去に犯した罪に対する強い罪悪感が、第1話の冒頭ですでに示されていたのです。
そして注目すべきは、第1話の冒頭、一稀は上から落ちてくる「ア」の看板の真ん中に立っています。
実はこの「円の中心に人がいる」という構図は、川嘘交番のレオとマブが欲望搾取するときに出てくる構図と似ています。レオとマブが、容疑者を取調べているとき、その容疑者の周りに円が出てきます。円の真ん中にカワウソのマークがあり、さらにその周囲を円を描くようにしてカワウソが回っています。そして、円の中心に容疑者が座っています。このように、一稀が「ア」の中心に立っている構図と、交番で容疑者がカワウソマークの中心に座っている構図は似通っているのです。
また、川嘘交番ではお決まりの「はじまらず、おわらず、つながれない者たちよ」というセリフも重要です。
これは、円の中心にいる容疑者に向けられた言葉ですよね。それは転じて、一稀に向けられた言葉であると考えることもできます。何しろ、容疑者と同じ構図の中に一稀はいるわけですからね。
実際、第5話では、一稀だけが家族とつながれていないことが判明します。まさに一稀は「はじまらず、おわらず、つながれない者」なのです。
しかし、春河はつながれていない一稀にこう言います。
「違う服を着てたって、大人になって離れ離れになったって、僕とカズちゃんは、はじめから、おわりまで、まあるいえんでつながっているよ」
(引用:『さらざんまい』第5話より)
春河にとって一稀は正真正銘の家族であり、つながれる存在なんですね。けれど、一稀はそのことにまだちゃんと気づいていない様子。罪悪感と疎外感に苛まれていて、「血のつながり」に固執し、春河との間の「想いのつながり」が見えていません。
さて、一稀の本当の姿があらわになったいま、春河と一稀のつながりは保たれるのでしょうか?期せずして、一稀は自分の本当の姿を見せることになりました。これはある意味、現実世界でさらざんまいをしたような状態。
自分の秘密がバレてしまうのが、さらざんまい。一稀はカッパにならないまま、春河に隠していた秘密を漏えいしてしまったのです。けれど、本性を知られたからこそ、相互理解が進むのも、さらざんまいの機能の1つ。
現実世界で、さらざんまいした一稀は、ようやく段ボール箱にしまい込んでいた自分の「つながりたい」という気持ちを、春河にぶつけることができたのではないでしょうか。そして、それは春河にも伝わるはずです。
2人がつながれるのかどうか、第6話の展開が非常に気になりますね。
『さらざんまい』第5話の考察② 吾妻サラとケッピは同族?
もはや語ることはないくらい、一稀について語ってきましたが、第5話にはそれ以外にも、興味深い要素がいくつかありました。
とくに吾妻サラについては、触れておくべきでしょう。ようやく、モニターの向こう側にいたサラが、一稀や久慈たちと接触しましたね。
そして、サラがカッパのような何かに変身できることも判明しました。やはり普通の人間ではなかったようですね。形態変化後のフォルムを見る限り、ケッピと同じ種類のカッパだということが分かります。
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ケッピは自分のことを「カッパ王国第1王位継承者」と言っているので、同じ形のサラもカッパ王国のお姫様か何かだと予想することができます。となると、今後、サラとケッピが顔を合わせる瞬間がありそうですね。お姫様と王子様コンビみたいな感じで……。
さて、そうなると、どうしてサラとケッピは人間社会で活動する必要があるのかという疑問が生まれてきます。完全な憶測ですけど、例えば、「王位継承者」とわざわざ名乗っていることから考えると、カッパの国では「王位継承」にあたって何かしらの争いが生じているのかもしれません。
そして、カワウソの活動も王位継承争いに関係しているのかもしれません。まぁ、はっきりとは分かりませんけどね。いずれにせよ、ケッピとサラの活動目的については、今後も注目したほうがよさそうです。
『さらざんまい』第5話の考察③ 個人主義のレオと全体主義のマブ
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ようやく、レオとマブの関係性が見えてきましたね。これまでは、とにかく問答無用に「欲望搾取」を叫ぶ2人の印象しかありませんでした。しかし、エンディング後の2人の会話を聞いて、どうやら2人はうまくいっていないみたいだな、ということが分かってきました。
「メンテナンス」だとか「持ち場を離れられる」とか、謎のワードが多発しましたが、ここでは以下のやり取りに注目してみようと思います。
マブ「個人の感情など、優先してなんになる」
レオ「お前に、分かってたまるか!」
(引用:『さらざんまい』第5話より)
上記は、マブの発言にレオが明確な怒りを見せる場面。「個人の感情など、優先してなんになる」というマブのセリフからは、「全体主義>個人主義」という思想を読み取ることができます。
2人の活動を見る限り、人間から搾り取った欲望を1つに集めているようですし、何かを1つに束ねるという点ではマブの主張と行動は首尾一貫している印象があります。
対して、レオは「お前に、分かってたまるか!」と言っていることから分かるように、個人が感情を持つことに対して肯定的です。マブとは対照的に、レオの場合は、「個人主義>全体主義」の思想を持っているように見えます。
そうなると、レオはなんのために、欲望搾取を続けているのか?この点が疑問になってきます。レオやマブの行為は個人を成り立たせている欲望を搾り取る行為なので、レオが個人主義者だとすると、主義と行為が矛盾することになります。
主義主張の違いから、今後、レオはカワウソ陣営から離反するかもしれません。あくまでも、憶測ですけどね。
とはいえ、レオはマブのことを、かなり大切に考えているはず。それはオープニングを観れば分かります。
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オープニングの1:00辺りから、さらざんまいのポーズをしたキャラが順に現れます。一稀の背後には春河の姿、燕太の背後には一稀の姿、久慈の背後には兄(久慈誓)の姿、そしてレオの背後にはマブの姿が映し出されています。
これは、「誰が誰とつながりたいと思っているのか」を表しています。この理屈で言えば、レオはマブとつながりたいはずです。
主義主張が対立していると考えられる2人が今後、どのように「つながる」のか、これは注目ポイントですね。私の予想では、一旦離れて、最終的にくっつく気がします。いわゆるバディものでよくある展開ですね。
一旦離れたときに、一稀たちと接触するのかどうかも気になります。もし、レオが何らかの理由で、カワウソ陣営ではなくカッパ陣営につくことになったら面白そうですね(笑)
『さらざんまい』第5話の感想・ネタバレ考察のまとめ
最後に『さらざんまい』第5話で気づいたポイントについて以下にまとめておきましょう。
- 一稀は家族に対して「疎外感」を覚え、春河に対して「罪悪感」を抱えている。
- はじまらず、おわらず、つながれない一稀と、はじめから、おわりまで、つなげようとする春河のすれ違い。
- 吾妻サラはカッパ王国のお姫様なのではないか?
- レオの主張とマブの主張は食い違っているため、今後レオはカワウソ陣営から離れる可能性がある。
さて、一稀と春河、そしてレオとマブ。この2組の関係性がどのように展開していくのか、第6話以降が楽しみですね。もうVODとかでも配信されているので、さっそく視聴してみようと思います!
ちなみに、第5話は桜が美しい回でしたね。春河の名前の「春」にふさわしい煌びやかな桜の花びらに息を飲みました。春河がはじめて「はじまりから、おわりまで、まあるいえんでつながっているよ」と一稀に話すシーンの表現として相応しかったと思います。桜は春のシンボルであり、春は始まりの季節ですから、2人がつながりはじめた、その象徴として素晴らしい場面でした!
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『さらざんまい』第1話~第4話まで、各回の考察記事は以下からご覧いただけます。たびたび、考察が変化しているので、そういう点も含めて楽しんでいただけると嬉しいです!ご一読あれ。