「雨は止んだ。灼、雨は止んだ」
さて、第2話も謎の言葉が飛び交っていましたね。「雨は止んだ」とは、一体どういう意味なのか。先に申し上げておくと、現時点で、私はこの言葉の意味を解明していません。ただ、「雨は止んだ」が出てきた状況から考えて、私なりにいくつか分かったことはあります。その点については、以下で見出しを設けてまとめておこうと思います。
そのほかにも、第2話は気になるポイントがいろいろありましたね。個人的には、押井守監督の『イノセンス』のオマージュを感じて、ニヤッとしてしまいました。特に、ハイパー・トランスポート社の与根原を追って、廃棄区画のヤクザの事務所に乗り込む辺りは、『イノセンス』でバトーがヤクザの事務所に襲撃をかけるシーンと重なって興味深かったですね。選挙カーで演説する場面もやたらと華やかで、『イノセンス』で出てくるエトロフ経済特区のパレードを思い出しました。
まぁ、これは私の勝手な思い込みですから、「世迷言を言ってやがる」と思っておいてください。
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それと、面白かったのは「多数の人間が無自覚に事件に加担している」という仕組み。確かに、殺害の動機を持たない(無自覚の)人間の行為なら、当人の色相悪化にはつながらないですよね。サイコパスのロンダリングとでも言えばいいですかね。
ただ、ここで注意したいのは、主犯の些々河がメンタルタフネスだったという点です。めったなことでは動揺しないメンタルの持ち主でないと、リックの殺害計画を成立させることは難しいと思うんですよね。
というのも、いくら「死ぬか・色相悪化のまま生き続けるか」の選択をリック自身にさせたからといって、犯人に「始末しよう」という意思があったことは事実なので、その時点で多少なりともサイコパスは濁るはずです。
第2話で登場したアイドル政治家の小宮カリナも、メンタルコントロールの優れた人物であるのは間違いない。アイドルグループのメンバーが色相を悪化させても自分だけは正常でいられる、そういうメンタルタフネスな人物です。
劇中でも、わざわざ与根原に「俺はお前みたいに、メンタルタフネスじゃないんだ」と言わせていることからも、メンタルタフネスであることが、犯行を成立させるのに、あるいはインスペクターであるために、必要な特徴であると考えられます。多数の人間による無自覚の事件関与、偶然性の演出、そして主犯のメンタルタフネス、これらの要素があってはじめて成立する犯行だなと思いました。
ちなみに、上記に関係する要素として思い出しておきたいのが「集合的サイコパス」についてです。『PSYCHO-PASS サイコパス 2』における、鹿矛囲桐斗(かむいきりと)の登場によって集合的サイコパスを判定する可能性が示唆されました。つまり、個人のサイコパスだけでなく、犯罪を企てる可能性のある集団のサイコパスまで判定しようというわけです。
これって第3期の内容と少し重なると思いませんか?先ほども述べた通り、今回使われた犯罪の手法は、多数の人間が無自覚のうちに犯罪に加担しているというもの。計画したのは1人だとしても、死へ導いたのは集団です。この場合、個人だけを裁くのか、集団を裁くのかが難しいラインになってくる。いつの間にか集団が犯罪に巻き込まれていたとしても間違いなく人は死んでいるわけで、その場合の判定はどうなるのか、この辺りはシビュラに突きつけられる課題かもしれません。
第2期のシリーズ構成も、第3期と同じく、冲方丁が担当していますから、集合的サイコパスについて触れられる可能性はあるでしょう。あくまでも可能性ですけどね。
はい。前置きが随分長くなりましたね。すみません。
それでは、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話を観て、気づいたこと・感じたことをネタバレ全開で語っていこうと思います!
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- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話「テウメソスの生贄」のあらすじ
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察① 冒頭1分30秒の鮮やかすぎる「謎」の提示とアハ体験
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察② 初めてブチ切れた炯(けい)・ミハイル・イグナトフ監視官について
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察③ 「雨は止んだ」の意味とは?
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察④ メンタリスト・慎導灼の巧みな心理テクニック
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察のまとめ
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話「テウメソスの生贄」のあらすじ
TVアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス 3」ノンクレジットOP
慎導灼(しんどうあらた)と炯(けい)・ミハイル・イグナトフ、2人の監視官は捜査の末、旭・リック・フェローズの死の真相に辿り着く。17つもの複合的なミスによって発生した大型輸送機の墜落事故と、それに伴うリックの死。その背後には、多数の人間が無自覚のうちに事件に加担しているという仕組みが存在した。無自覚であるがゆえに、事件に関与していたにも関わらず、色相が濁らなかったのである。
ハイパー・トランスポート社の些々河哲也(ささがわてつや)と与根原巧(よねはらたくみ)は、旧時代の金融システム・サブプライムローンの仕組みを使って、不正に多額の利益を得ていた。この「サブプライムダイアグラム」を見破ったリックは、告発資料を準備していたのである。その内部告発を防ぐために、主犯である些々河はリックの殺害を計画・実行していたことが判明。
リック殺害事件の「手段」と「動機」の2つを掴んだ灼と炯の2人は、犯人をゆするために監査機関に情報をリーク。規定値超過のサイコパスが計測され、現場へ急行する一係だったが、すでに些々河と与根原の姿はなかった。
街頭スキャナ未配備地区に逃亡した与根原を追い、一係は廃棄区画へ移動。スラム出身の入江の助言を得て、炯は2人の執行官を連れ、与根原の潜伏場所へ踏み込む。一方の灼は、如月と雛河の2名を連れて、ドミネーターが使えるようケーブルの接続を進める。一係による懸命の捜索もむなしく、現場に到着時、すでに与根原は死亡していた。
だが、まだ1人残っている。主犯の些々河だ。霜月の命令を無視して、一係は些々河を追って有明空港に訪れるも、灼と炯の目の前には謎の男が2人立っていた。外務省行動課の宜野座伸元(ぎのざのぶちか)と狡噛慎也(こうがみしんや)だ。灼と炯が外務省行動課の2人と相対している頃、同じく外務省行動課の花城フレデリカと須郷徹平(すごうてっぺい)の両名が、逃亡を図ろうとする些々河を航空機内にて確保。事件は一応の解決をむかえる。
事件解決後のある日、某ホテルにて、土谷荒城(つちやこうじょう)が転落死した。現場入りする一係だったが、偶然の連鎖による事故の発生という仕組みが、リックの事件と類似することから、引っ掛かりを感じ捜査を続行。土谷がアイドル政治家・小宮カリナのメンタルケアを担当していたことから、灼は関係者である小宮のもとへ向かう。だが、小宮はメンタリストとしての才能を持つ底知れぬ人物であった――。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察① 冒頭1分30秒の鮮やかすぎる「謎」の提示とアハ体験
第1話同様、第2話も観客を飽きさせない工夫が随所に施されていました。特に私が注目したのが、前半パートの「アハ体験プロット」です。
何じゃそりゃ?と思われたかもしれませんね。どういうことなのか、具体的なシーンを振り返りながら、1つずつ解説していきます。
「疑問(ストレス)」→「解答(ストレス解消)」の繰り返しで視聴者を飽きさせない!
第2話の冒頭1分30秒。オープニングに入る前のアバンには、レベルの高い技術が詰め込まれていました。灼と炯は大型輸送機墜落事故の映像が撮影された位置で、メンタルトレースを実行し、リック殺害事件の犯行の「手段」と「動機」の特定に至ります。灼の口からも、これで「手段」と「動機」が分かったという言葉が出てきました。
しかし、この時点で視聴者の我々は犯行の「手段」と「動機」の両方が分かっていたでしょうか?「分かっていた」と即答できる人は少ないでしょう。
犯行の「動機」については、第1話にて「内部告発者の口封じ」であることが明らかにされていましたが、一方の「手段」はどうでしょうか?そうなんです。こちらに関しては、まだ説明されていないので、よほどクレバーな視聴者でない限り、灼と炯の導き出した犯行の「手段」が何なのか、この時点では分からないのです。
つまり、「手段」と「動機」のうち、視聴者は半分しか分かっていないわけです。となると、視聴者の頭の中に「?」が浮かびます。「え?動機は口封じだから分かるけど、手段ってなに?」と言った具合に。その疑問に答える形で、オープニング明け、犯行の「手段」に関する解説が行われます。
冒頭では、メンタルトレースを行ったあと、急にシーンが夜に飛んでいますよね。本来はあったはずのやり取り(夕方→夜の間のやり取り)の場面を意図的に排除することで、灼と炯だけが犯行の「手段」を把握している状態を作り出し、あえて視聴者を置き去りにしているのです。視聴者をモヤモヤさせているのです。実に巧妙ですね。
「手段って何?」と視聴者の中に疑問を抱かせ、その解答をすぐ後に持ってくることで、「疑問(ストレス)」→「解答(ストレスの解消)」の構造の中に視聴者を取り込んでいるわけです。
これは、マンガで頻繁に使われる構成ですね。最近は縦スクロールのマンガも増えてきましたが、普通の見開きのマンガの場合、右上のコマから始まり、左下のコマへ向かって視線が動くように作られています。そして、マンガでは、次のページを開かせるために、左下のコマに気になる描写を設けることが多いです。
人物の後ろ姿や、何かに驚いた顔などを左下のコマに配置し、「次はどうなるんだろう?」と読み手に興味を持たせて、ページをめくらせる。すると、次のページには驚きの真相が描かれていたりする。
左下のコマで「疑問」を抱かせ、右上のコマで「疑問を解消する」、この構造の中に読み手を取り込むことができれば、読み手は興味を持ってページをめくり続けてくれます。
サイコパス3の第2話で使われていたのが、この方法です。冒頭で視聴者の中に「?」を発生させ、「答えを知りたい!」という心理状態にさせて視聴者の興味を引き、その疑問を解消してあげることで「なるほどね」と納得させる仕組みです。
こうした、疑問を発生させて視聴者の関心を引き出し、その後の答えで満足させるプロットを、私は「アハ体験プロット」と呼んでいます。
「一見同じように見える画像が実は徐々に変化しています、さて、どこが変化したでしょう?」みたいなテレビ番組のコーナーが昔、流行りましたよね。脳科学者の茂木健一郎氏が提唱するいわゆる「アハ体験」というやつ。脳に負荷をかけて考えさせた後に、答えを見せると「アハ!」と脳が喜ぶというアレです。
何の疑問や謎もなく、答えが提示されても「ああ、そうですか」と何の感動もありませんが、「分からない」、「どうして?」と疑問を発生させ脳に圧をかけたうえで、答えを知ると「なるほど!」とある種の気持ちよさ(快楽)を感じるのが、私たちの特性としてあるようです。
この「アハ体験」を意図的にプロットの中に組み込めば、観客は「これってどうなるの?」という疑問を解消するために見続けてくれますし、疑問が解消された時のアハ体験の気持ちよさを感じて、本編全体を楽しむことができます。
ちなみに、ほかにも第2話には「アハ体験」が用意されていました。些々河を追いかけて、一係が有明空港に向かうシーンですね。あのシーンは痺れましたよ。
霜月の命令を無視して、空港へ急ぐ一係。霜月はモニター越しにフレデリカと会話しながら、怒り心頭で現場へ向かう。このシーンで1つの「?」が視聴者の中に生まれます。「なんでフレデリカは飛行機に乗っているの?」という疑問です。
その後、空港に到着した灼と炯は、宜野座と狡噛に遭遇する。ここでも、また疑問が生まれます。「どうして、狡噛と宜野座がここにいるの?」という疑問です。この時点で2つの疑問が視聴者の中に発生しています。そして、のちに外務省行動課は些々河を捕まえるために動いていたことが判明し、視聴者の中にあった2つの疑問が解消されます。
短い時間の中で、複数の謎を示したうえで、その答えを提示し、観客にアハ体験の気持ちよさを提供している。ここでも、「アハ体験プロット」が使われていたわけですね。
しかも、旧・刑事課一係のメンバーが現れるというサプライズ的な感動もあるわけですから、視聴者を二重三重に驚かせる見事すぎる構成だと思います。さらに、アクションを入れているおかげで、画面の緊迫度も増したため、「アハ体験」×「旧キャラのサプライズ登場」×「アクション」という本当に何重にも面白い仕掛けがされている凄まじいシーンだと思いました。脱帽とは、まさにこのこと。
ちなみに、第2話の冒頭には、二重の謎が仕込まれていました。1つめは、すでに紹介した「犯行の手段って何?」という謎。もう1つが、「雨は止んだって何?」という謎です。第2話で解決される「直近の謎」と、「シリーズ全体の謎」の両方を冒頭1分30秒という短い尺の中に、放り込んでいるのです。冒頭から情報量がとんでもないことになっていますね。よく頭がこんがらがらないなぁ、と改めて、冲方丁や深見真の作家としての能力と技術力の高さを思い知らされました。
深見真が仕掛ける「感情移入の伏線」に注目!
構成面に関して、もう1点だけ気になるところを紹介させてください。些々河を確保し、事件解決となった後、それぞれが自宅で休息をとる場面が映されていたと思います。緊迫したシーンのあとに出てくる、いわゆる「ダレ場」と言われるシーンですね。緊張感のある場面ばかりだと観客が疲れてしまうので、こうしたダレ場は話に緩急をつけるためにも大切ですよね。
こういうダレ場は、視聴者が気を抜く場面なので、作り手としては、いろいろな伏線を設置したくなるもの。第2話でも、灼の父親と常守の関係を匂わせていたし、炯はどうやら兄を失っているらしいという情報も垣間見えました。
ただ、私が注目したのは、こういったミステリー的な伏線ではなく、感情移入の伏線のほうです。私は、物語における伏線には2種類あると思っていて、1つはミステリーの伏線、もう1つが感情移入させるための伏線です。
例えば、愛し合っている夫婦の様子を物語の冒頭で見せられたあと、その夫婦のどちらかが亡くなる描写が描かれた場合、感情が揺さぶられますよね。では、愛し合っている夫婦の様子が描かれず、いきなり死別しているシーンが出てきたらどうでしょうか?最初のパターンと比べて、感情移入しづらいはずです。
いきなり死別を見せられても、視聴者にとってそれは他人事の死でしかない。しかし、事前に仲の良い関係性を知っていた場合、登場人物の死はもはや他人事ではなく、自分事としてとらえてしまうので、悲しくなるはずです。
このように、のちに描かれる悲劇や喜劇を、よりセンセーショナルに見せるために、あらかじめ「感情移入の伏線」を設置するという技術が存在します。
今作で脚本を担当している深見真は、ミステリー的な伏線を貼るのも絶妙ですが、感情移入の伏線を貼るのもうまいです。
直近で言えば、劇場版3部作の2作目『サイコパスSS Case.2』では、冒頭で仲の良い夫婦の姿を見せ、そのうえで、その後の死別と復讐劇を描いています。事前に仲の良さ(伏線)が提示されているからこそ、後半の復讐劇がより鬼気迫るものとして説得力を持ち、そして何より感情移入しやすくなります。
このように、穏やかな場面で、深見真はさりげなく「感情移入の伏線」を配置しているので、ダレ場が来たら注意したほうがいいかもしれませんね。
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第2話で言えば、炯が自宅で妻からお茶を受け取るシーンがあると思うのですが、ああいう仲睦まじい夫婦の姿を提示しているところを見ると、感情移入の伏線ではないかと私なんかは疑ってしまうわけです。
なにせ、サイコパスSS Case.2でも、夫婦の仲睦まじい姿と死別を描いているわけですからね。
第1話のブログでも申し上げたように、炯は妻を失う悲劇に直面する可能性があるので、この辺りは心配です。妻とのシーンが増えれば増えるほど、妻を失った場合の悲しみを視聴者も感じることになりますから、こういう感情移入の伏線を少しずつ仕込んでいるのかなと、邪推ながら、ちょっと考えています。
そのほかにも感情移入の伏線がないか、第3話以降を観る中で目を光らせてみようと思います。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察② 初めてブチ切れた炯(けい)・ミハイル・イグナトフ監視官について
第1話では、襲い掛かってきた相手に対して寛容だった炯(けい)・ミハイル・イグナトフ監視官ですが、第2話では容赦なくドミネーター・エリミネーターモードでヤクザを撃ち殺していましたね。
第1話で、炯は移民に対して極めて寛容でした。住宅の立ち退きが原因で大家を人質に取っていた移民に対しても、決して執行するようなことはなく、体術を用いて取り押さえ、しかも、彼らがこれから日本で生活できるよう手配までしていました。被害者・リックの妻に対しても、日本で生活できるよう支援していました。
ですが、第2話で登場したヤクザに対しては容赦しませんでしたね。相手がヤクザなのだから執行して然るべきですが、とはいえ、第1話では襲ってきた相手に対してドミネーターを使うような真似はしませんでした。
実を言えば、「襲ってきた」という点に関しては、第1話の移民も、第2話のヤクザも同じです。しかし、炯は移民を許しても、ヤクザは許しませんでした。この違いはなんでしょうか?ヒントは、ヤクザが死ぬ前に放った一言にあると私は考えています。
それが、「この国から入国者は出ていけ!」という発言。この言葉を聞いた瞬間、あれだけ寛容だった炯が、間髪入れずに引き金を引きました。キーワードはおそらく「入国者」ですね。炯自身がロシア系移民ですし、彼の妻も同じく移民。
もしかすると、炯自身が入国者として苦労した経験を持っているのかもしれません。となると、この「入国者は出ていけ!」という差別発言が炯を憤らせた可能性は十分に考えられます。あるいは第2話で話題に出てくる、炯の兄も移民として不当な差別や被害にあった人物なのかもしれません。こうした入国者への、鎖国派による不当な攻撃に対して、炯は並々ならぬ想いを抱えていると思われます。
上記を考慮すると、やはり第3期の根底には「開国派vs鎖国派」という基本的な対立構造があると推察されます。第1話でも、霜月が局長から「君は開国派かね?鎖国派かね?」という質問を受けていました。ことあるごとに、移民、開国、入国者などの言葉が飛び交っていることから勘案して、「開国派vs鎖国派」の構造があることは間違いないでしょう。
それと、これは邪推ですが、シリーズ構成の冲方丁は『天地明察』や『麒麟児』といった歴史小説を手掛けています。特に『麒麟児』は幕末を舞台にした作品です。幕末と言えば、開国派と鎖国派の対立が激化する時代。くしくも、幕末の状況と、サイコパス3で日本社会が置かれている状況には近いものがあります。
冲方丁は麒麟児で培った幕末の構造を、サイコパス3に入れ込んでいるのかもしれません。大河ドラマでよく描かれる幕末と、サイコパス3で描かれる「開国派vs鎖国派」の状況が、どのように重なってくるのか、この辺りに注目して鑑賞すると、今後面白い気づきが得られるかもしれませんね。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察③ 「雨は止んだ」の意味とは?
灼がメンタルトレースする際の「雨が降ってる」と「雨は止んだ」という発言。この真意は、現時点ではよくわかりません。ただし、メンタルトレースを行う状況から考えて、第2話からいくつか分かったことがあります。
劇中で示されている通り、メンタルトレースの能力を発動させるには、まず、ノイズ音が流れているイヤホンを付ける必要があります。その際に「雨が降ってる」というセリフが出てきます。皆さん、お気づきのように、メンタルトレースの際には一度、過去の状況を再現する必要があるものと推察されます。それは、おそらく父親の事件と関係する過去です。
灼が思い出しているその過去の某日には、雨が降っていたのでしょう。だから、イヤホンから流れるノイズ音で雨音を再現し、「雨が降ってる」と言い聞かせることによって、過去の特定の心理状況を再現しているものと思われます。それはいわゆる「トラウマ」というものかもしれません。そのトラウマを思い出すことが、能力の発動には欠かせない作業なのでしょう。
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トラウマを思い出しているからこそ、廿六木が確認した灼のメンタルカラーは異常な数値を示していたのだと考えられます。被害者のメンタルに入っているからメンタルカラーに異常が出たとも考えられますが、廿六木が確認した時点ではまだ自殺した土谷のメンタルに入る前の段階。ということは、メンタルトレースの前段階の時点で、灼のメンタルには何らかの異常が生じていたものと推測できます。では、どうしてメンタルに異常が生じたのか、それはトラウマを思い出しているから、過去の心理状況を再現しているからだと考えられます。
また、公式ホームページのキャラクター紹介欄には「過去の事件が原因で、父親の車でしか熟睡できない」と書かれており、第2話の本編でも車の中で眠っているシーンが映されています。しかも、眠っている最中も外では雨が降り、狐の顔をした謎の人物が車の外に立っていました。ここから考えられるのは、メンタルトレースの際に出てくる雨と狐の顔をした人物は、過去の事件の象徴なのではないかということ。
そして土谷にメンタルトレースする際は「雨が降ってる」と言った後に、狐の顔をした何者かが出てきました。その過去の事件の象徴に対して、灼は「違う」と言って、自殺した土谷に意識を切り替えようとしていました。
つまり、「過去の心理状況の再現」→「被害者のメンタルへ入る」という順番でメンタルトレースは実行されているわけです。メンタルトレースのためには、一度、過去の事件(トラウマ)の象徴を呼び起こし、過去の心理状況を再現する必要があるのでしょう。
さて、では狐の顔をした人物とは一体何者なのでしょうか?現時点では、梓澤廣一以外には考えづらいですよね。
梓澤はインスペクターの1人ですし、どうやら灼の父親とも面識がありそうです。
さらに言えば、第2話の冒頭、灼は空港で墜落事故を撮影していた人物のメンタルトレースを行いました。その際、灼の目の前には、いつも出てくる狐の顔をした人物が立っていました。しかし、灼は「違う」とも何とも言わず、メンタルトレースを続けました。
土谷の時は、狐の顔をした人物に対して「違う」と言い、意識を切り替えていたのに、空港でのメンタルトレースでは、そのまま続行した。
ここから考えると、灼がメンタルトレースした空港の人物と、灼の眼前に常に現れる狐の顔をした人物は同一人物だということになります。違うとは言ってないわけだから。そして空港で撮影していたのは梓澤ですから、やはり狐の人物=梓澤の式が今のところは成り立つ気がします。
ただですね、これ、もしかしたらミスリードされているかもしれないんですよ。というのも、服装が違うんですよ、狐の人物が着ている服装が。
第2話で狐の人物が現れるのは3回。空港でのメンタルトレース、睡眠中に現れる幻影、そして土谷へのメンタルトレースの3回です。
空港でのメンタルトレースでは、梓澤と同じスーツとネクタイを着ている狐の人物が映し出されているのですが、土谷へのメンタルトレースの際に現れる狐の人物はネクタイを締めていません。服装が異なるのです。ちなみに、睡眠中に出てくる幻影は、残念ながら暗すぎて服装まで確認できませんでした。
いずれにしても、狐の人物の服装が異なるのは、少し興味深い。もしかすると、梓澤と狐の人物は別人なのかもしれない。灼の眼前に現れる狐が一体何者なのか、服装にも注意して第3話以降観ていこうと思います。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察④ メンタリスト・慎導灼の巧みな心理テクニック
第2話を観て分かったのは、 メンタリスト・慎導灼の巧みな心理テクニック。土谷の転落死について違和感を持った灼は、アイドル政治家・小宮カリナのもとを訪れます。一見ヘラヘラしている灼ですが、会話の中で、さりげなく相手をイラつかせる言葉を口にします。「可愛い子にはつきものですね。ストーカー」というセリフです。この言葉を受けて、それまで素の表情を見せなかった小宮が苛立ちを露にします。
これが灼のやり口です。相手が動揺しそうな、あるいは相手の怒りを買いそうなワードを放り込んだとき、どんな反応が現れるのか、それを観察しているわけです。感情を揺さぶって、反応を見る。
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これは、第1話でハイパー・トランスポート社の与根原に対して行ったものと同じです。初めて与根原に話を聞く際も、無邪気にドミネーターを与根原に向けていましたよね。一見、単なる興味本位の行動に見えますが、あえて失礼なことや、相手の感情を逆なですることをして、反応を引き出しているのです。
メンタリストならではの、実に巧妙な手口ですよね。これは、なかなか面白い。この灼の揺さぶりが効いたのか、小宮は席を立ち横を向いた瞬間、険しい素の顔を見せていました。いやはや、慎導灼、恐ろしい子ですね。
ちなみに、ストーカー発言で小宮は怒りを見せましたが、この言葉に反応したことから推理すると、昔一緒だったアイドルグループのメンバーがストーカー被害に遭っていた可能性が考えられます。
ストーカー被害によるストレスでサイコパスを濁らせ、小宮以外のメンバーはアイドルを辞めざるを得なくなった。こうした過去を持っていたからこそ、小宮は灼のストーカー発言に反応したのかもしれません。あくまでも推測ですけどね。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話の感想&考察のまとめ
第2話には外務省行動課も出てきて、とにかく見どころが満載でしたね。 選挙やら、スポーツやらが出てきたのも興味深いところでした。『PSYCHO-PASS サイコパス 3』では、今までよりも文化・政治・経済・スポーツ等、様々な視点からシビュラ社会の全貌を表現しようとしていますよね。この点も、新作ならではの新しい試みとして、私はかなり楽しんでいます。
ちなみに、第1話のタイトルである、どんな獲物も逃がさない「ライラプス」に対し、第2話は何者にも捕まらないギリシャ神話に出てくる狐「テウメソス」をタイトルに設定しているのが面白い。「灼&炯vsインスペクター」の対立構図を、第1話と第2話のタイトルに持ってきている、この遊び心が実に楽しいですよね。
さて、それでは最後に、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第2話を観て気づいたこと・感じたことをまとめておきます。
- リック殺害事件は、多数の人間による無自覚の事件関与、偶然性の演出、そして主犯のメンタルタフネス、これらの要素があってはじめて成立する犯行である。
- 多数の人間による無自覚の事件関与という仕組みは、第2期の集合的サイコパスを思わせる設定である。
- 第2話で解決される「直近の謎」と、「シリーズ全体の謎」の両方を冒頭1分30秒という短い尺の中に放り込み、物語の引きを作っている。
- 短い時間の中で、複数の謎を示したうえで、その答えを提示し、観客にアハ体験の気持ちよさを提供している。
- 「ダレ場」のシーンで脚本家・深見真はミステリー的な伏線のほかに、「感情移入の伏線」を貼っている可能性があるので注意。
- 炯は入国者に対する差別発言に敏感である。
- 第3期の根底には「開国派vs鎖国派」という基本的な対立構造があると推察される。
- メンタルトレースのためには、イヤホンから流れるノイズ音で雨音を再現し、「雨が降ってる」と言い聞かせることによって、過去の特定の心理状況を再現する必要がある。
- メンタルトレースの際に出てくる雨と狐の顔をした人物は、過去の事件の象徴なのではないか。
- 「過去の心理状況の再現」→「被害者のメンタルへ入る」という順番でメンタルトレースは実行されている。
- 狐の人物=梓澤?
- 同じ狐の顔でも服装が違うこともあるので要注意。
それとですね、上記以外にも、まだあるんですけど。。
ビフロストの法斑静火って、先見の明ありすぎじゃないですか?普通、あそこまで展開を予測できますかね。ちょっと思ったのが、もしかして、法斑静火ってシビュラシステムなんじゃないの?という疑問。
法斑の「自明だっただけのこと」という話し方や、俯瞰的な視点が、極めてシビュラシステムっぽいんですよね。サイコパスシリーズでは、度々シビュラシステムは人の皮を被っていることがあります。特に2015年の劇場版や、サイコパスSSでは、事件にかかわる主要人物の皮を被っていたことが、後々になって判明します。
そのため、ビフロストの存在を嗅ぎつけたシビュラが潜入している可能性はあると思います。誰がシビュラの皮を被っているのか、こうした視点で話を追うのも楽しいかもしれませんね。
それから、宜野座と再会した霜月が「これで貸し借りなしよ!」と怒鳴るシーンも少し引っ掛かりました。今回、霜月は宜野座たち外務省行動課に助けられたので、「借り」ができたわけです。
ですが、「貸し借りなし!」と言っていることから考えると、以前、外務省行動課に何かしらの「貸し」を作っていたことになります。では、その貸しとは何か?優秀な部下を差し出したことなのか?
「借り」は分かりましたが、「貸し」の部分が判明していないので、この辺りも今後に注目ですね。
いやぁ、、、今回も長くなってしまいました。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
それでは、今回はここまでにしましょう。
次回のレビューまで、さようなら~(^^)/
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- 『PSYCHO-PASS サイコパス』の過去記事については、以下をご覧ください。