「システムがすべてじゃない」
第1期のときからテーマとして設定されている「人間の意志」ですが、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』でも、きっちりと描かれていましたね。特に第4話は、テーマ回でした。
システムを利用しつつも自分の意志を重視する灼と炯、言動・思考をAIに委ねることによって目的を果たそうとする小宮カリナ、自分の意志を放棄し目的すら持たなくなった大衆。この中で、皆さんはどれに賛同しますか?
小宮カリナはまだ、マカリナを使って社会を変革しようという明確な「目的」を持っています。小宮が捨てたのは「思考」です。では、大衆は何を捨てたのでしょうか?答えは、「思考」と「目的」の両方。ここまでくると、もはや人間なのか否か、微妙なラインになってきますよね。
一方、灼と炯は「思考」と「目的」の2つを持っており、彼らはその2つがあることで、人間の意志が成立すると考えているように見えます。小宮が捨てた「思考」も、監視官2人は持っているわけですね。
こう書くと、意志を持つことが最善だと主張しているように見えるかもしれませんが、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』には意志を持たないことのメリットも示されています。
「みんながみんなずっと目を開いていたいわけじゃないんだし」
観覧車のシーンで、小宮が口にしたセリフです。
たしかに、一理ありますよね。
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あらゆる意思決定を外部に委託し、何も考えずに生きたほうが幸せであるというのも理解できます。かくいう私も、考えるのが億劫になることはあるし、ずっと眠っていたいと思うこともよくあります。人間には根源的に「考えたくない」という欲望が存在するのかもしれませんね。代わりに考えてくれる誰かがいてくれたら、そりゃ、任せたくなりますよ。
とはいえ、「思考」も「目的」も外部化してしまったら、そこに残るのは人間の形をしたただの抜け殻でしかないと私は思います。常守が再三言い続けているように、システムにすべてを委ねるのではなく、自分で考える姿勢を失くさないことは大切ですよね。そうしないと、危ない方向へ世間(あるいはシステム)が走った時に、その危険性に気づかず飲み込まれてしまうかもしれないし、何も考えずに行動したらいつの間にか加害者になっていたなんてこともあり得ますから。
さて、前置きはこのくらいにして、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話を観て気づいたこと・感じたことを書いていこうと思います。灼と小宮の観覧車デートなど、これまでのシリーズでは見られなかったムーディーなシーンも含め、魅力満載の第4話についてネタバレ全開でいろいろと語っていきます!
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- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話「コロッセオの政争」のあらすじ
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話の感想&考察① 1話~2話と2話後半~4話のプロットを比較して分かった共通点!
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話の感想&考察② 小宮カリナと慎導灼の関係性から見える今後の展開!
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話の感想&考察のまとめ
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話「コロッセオの政争」のあらすじ
TVアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス 3」ノンクレジットOP
新たに捜査に加わった、フリージャーナリスト・六合塚弥生から廃棄区画の運搬業務に関する記録の提供を受けた慎導灼(しんどうあらた)は、ホテルの襲撃の際、街頭スキャナに拾われないよう仮死状態で犯人が運搬されていたのではないかと推理。複雑な運搬経路を辿った後、榎宮が根城にする茗荷谷の廃棄区画を通っている車両があることを突き止め、ホテル襲撃事件への榎宮の関与が決定的なものとなる。
同時に、入江は、転落死した土谷博士が、秋葉原の廃棄区画に事務所を構えていたという情報を入手。灼、入江、廿六木の3人はその事務所へ向かう。事務所に入った3人を待っていたのは、アシスタントAIだった。
一係の3人はアシスタントAIから、人間の認知負荷を外部からコントロールする機能を持つAIホログラム・マスコントロールカリナ(通称:マカリナ)を土谷博士が開発していた事実を知らされる。小宮カリナがそのマカリナを被ってスピーチし、大衆から支持を集めていたことも判明。
そのころ、榎宮が関わる運搬業者の動きを掴んだ一係は、小宮カリナが狙われる危険性があると考え、都知事選公開討論会が行われるギガ・アリーナへ急ぐ。
榎宮が送り込んだ襲撃者により討論会は妨害を受け、小宮カリナがAIホログラムを被ってスピーチしていたことが世間に知られることに。
討論会を見る名目で現場入りしていた炯は、襲撃者たちと交戦を開始。灼たちも現場へ踏み込み、襲撃者から逃げる小宮カリナの行方を追う。寸でのところで、襲撃者を退け、小宮の救出に成功する一係。榎宮の差し向けた襲撃者による騒動は一応の収束をむかえる。
小宮の襲撃に失敗した榎宮は、茗荷谷のアジトを捨てて逃亡を図ろうとしていた。そんな榎宮の前に登場するインスペクター・梓澤。梓澤の策略に嵌り、榎宮は事故死。
事件解決後、都知事選の最終結果が公表される。結果は、薬師寺に大差をつけ、小宮が圧勝。小宮カリナが、新しい都知事に任命されることとなった。
榎宮の不可解な死に疑問を抱く灼と炯。そんな2人のもとに、廿六木はかつて自分が捜査の際に入手した梓澤の名刺を差し出す。捜査に関わった監視官1人が事故で死亡し、もう1人は施設送りにされ、その1人は「事故ではなく殺しだ」と言い続けているという。
梓澤の名刺を眺めながら灼は、いつの間にかメンタルトレースをしていた。目の前には、キツネの顔をした少年の姿。それを見るや否や、灼はその場で意識を失ってしまう――。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話の感想&考察① 1話~2話と2話後半~4話のプロットを比較して分かった共通点!
ここでは便宜的に第4話までに起きた事件を、「大型輸送機墜落事件」と「ホテル襲撃事件」の2つに分けてその構造を解説します。1話~2話の「大型輸送機墜落事件」、2話後半~4話の「ホテル襲撃事件」。
この2つの事件の描き方は、かなり似ています。そこで、それぞれの事件の流れを簡易的なプロットにして紹介し、見比べながら話の構造を明らかにしてみようと思います。それでは、まず2つの事件の流れを順番に紹介します。
「大型輸送機墜落事件」のプロット(第1話~第2話中盤)
- 事故発生……大型輸送機墜落
- 調査開始と事件性の認知……刑事課一係による機体の調査とリックの死体発見
- 聞き取り調査……関係者である与根原巧に事情聴取を行い、不審な反応に疑問を覚える
- 事件発生……住宅立ち退きに憤った入国者による人質事件
- 事故に関わる追加調査……リック宅にて内部告発資料を入手
- 事故と事件の因果関係が判明・犯人特定……与根原巧、些々河哲也が主犯であることを特定
- 犯人の追跡(クライマックス)……逃亡を図る与根原と些々河を追う
- 事件解決……犯人を確保し事件解決
- 謎の提示……些々河の名刺と慎導篤志の名刺、灼の過去などの謎を提示
「ホテル襲撃事件」のプロット(第2話後半~第4話)
- 事故発生……土谷博士の転落死
- 調査開始と事件性の認知……リック殺害時と似た状況から事件性を感じる灼と炯
- 聞き取り調査……小宮カリナに事情聴取する灼、薬師寺へ事情聴取する炯
- 事件①発生……薬師寺の秘書・リー・アキへの事情聴取中、襲撃を受ける
- 事件に関わる追加調査……榎宮が根城にする茗荷谷の廃棄区画を調査
- 情報提供による犯人の特定……六合塚の情報提供により榎宮が主犯であることが判明
- 事故に関わる追加調査……土谷博士の研究室でマカリナの存在を知る
- 事件①の犯人による事件②の発生(クライマックス)……都知事選公開討論会の襲撃事件
- 事件解決……小宮カリナを救出し、榎宮は謎の事故死
- 謎の提示……廿六木が関わった昔の事件、灼が見たキツネの顔をした子供などの謎の提示
こうして流れを概観してみると、話の構造がよく分かりますよね。
「大型輸送機墜落事件」と「ホテル襲撃事件」のプロットの共通点として注目したいのは、「事故→事件」の形で話が進んでいく点です。
最初の事故だけを調査するのではなく、別の事件を絡ませることで、ヒントを集めたり、複雑にしたりすることができます。
例えば、大型輸送機墜落事件の場合は、人質事件が発生したことにより、リックの隠していた住宅ローンの帳簿が何を示すのかを紐解くことができました。これは、事件がヒントとして機能しているパターンですね。
一方の「ホテル襲撃事件」も、土谷博士の転落死→ホテル襲撃事件の順番で話が展開していきます。1つの事故だけでなく、別の事件を発生させている点は「大型輸送機墜落事件」と同じ。
ただし、ホテル襲撃事件はヒントとして機能しているわけではなく、むしろ捜査を混迷させています。刑事を困らせるために機能している事件と考えられます。
真相を明らかにするためのヒントとして事件を挟む場合と、刑事を困らせて「これからどうなるんだろう?」と視聴者をハラハラさせるために事件を挟む場合の2パターンがあるわけですね。
いずれにしても、事件or事故の真相を追うなかで、別の事件が発生するという構図は同じです。おそらくですが、第5話以降も基本的なプロットとして上記で紹介した構造で話が組まれていくと思います。
上記で紹介した構成は、とても汎用性の高いものなので、ミステリーを作る際には、ぜひ活用してみてください。
ちなみに、どうして「大型輸送機墜落事件」が1話半で終わっているのに、「ホテル襲撃事件」が2話半もかかったのかと言うと、ドラマパートが多かったからですね。
ホテル襲撃事件の捜査中、入江の過去や廿六木の過去への言及、監視官と執行官の信頼関係の深まる過程などが描かれており、事件とは異なる部分でのドラマパートに時間を割いていたので、「大型輸送機墜落事件」と比べて長引いたものと推測されます。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話の感想&考察② 小宮カリナと慎導灼の関係性から見える今後の展開!
第4話で、灼と小宮カリナが一気に仲を深めましたね。
観覧車で密会するシーンは、サイコパスシリーズには珍しいラブロマンスの雰囲気が漂っていました。
脚本家的な視点で考えると、こういった仲を深めるシーンは、伏線として機能している可能性が高いです。まず、襲撃者から小宮カリナを灼が助ける描写が描かれていましたよね。ここで吊り橋効果的なものが作用し、2人の関係性が強化されています。
そのため、後日、小宮カリナと灼の観覧車デートが行われることになるわけです。助けたのが灼ではなかった場合、あの観覧車デートの展開に持っていくのは難しいでしょう。そして、ここまで段階的に2人の関係性を近づけているのには、作劇上の狙いがあるはずです。
脚本的に見て、今後、小宮カリナは真相に近づいたことにより、ピンチに陥る可能性が高いです。ビフロストの中でも小宮カリナの名前は上がっていたので、インスペクターの誘いを受ける可能性も十分にあります。こうしてビフロストへ近づいた小宮カリナが、信頼している灼に重要な情報を提供してくれるかもしれません。
ただし、重要な情報に触れたことが原因で、危険な状況に陥ることもあるでしょう。
この場合、ヒーローとして灼が彼女を助けたとしても、助けられず小宮カリナが命を落としたとしても、物語に大きなドラマ性を発生させることができます。
信頼関係のない人間が殺されたところで、与根原の死がそうであったように、何も心は動きませんよね。しかし、事前に信頼関係を構築している小宮カリナに何かあった場合、灼の心は大きく動くことになります。
作劇上の狙いはここにあるはずです。よりドラマチックにするための伏線として、2人を仲良くさせているのではないでしょうか?
まとめると、「インスペクター候補としてビフロストの情報を灼に提供するため」、「よりドラマチックな展開にするため」、この2つの理由で小宮カリナと灼の人間関係が構築されたのではないかと、推測できます。まぁ、あくまでも推測ですけどね。
ちなみに、小宮カリナが自分のことを「悪人」と呼んでいたことから、インスペクターの誘いをすんなり受け入れ、自分の目的のためにインスペクター(敵)として動く可能性もあります。そして、事件を追う灼たちと衝突するなんて展開があるかもしれませんね。これはこれで、信頼関係の構築→裏切りによるショックというドラマチックな流れが作れそうです。
そもそも、灼が小宮カリナのことを「怖い人」と言い続けている点も気になります。現時点で、その怖さはそこまで発揮されていないと思いますので、小宮カリナが本格的にインスペクター(敵)となったときに、その怖さが示されるのかもしれませんね。
『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話の感想&考察のまとめ
そう言えば、オープニングの「Q-vism」って曲があるじゃないですか。なんでキュビズムなんだろう?と、ずーっとそのタイトルが気になっていたのですが、ようやく分かってきましたね。
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キュビズムとは、1枚の絵に複数の視点から見た構図を取り入れる表現のこと。このキュビズムの考え方と、『PSYCHO-PASS サイコパス 3』の事件の構造って似ていますよね。
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『PSYCHO-PASS サイコパス 3』で描かれる事件は、「複数の人間が知らず知らずのうちに1つの事件に加担している」という仕組みです。1枚の絵に複数の構図を取り入れて成立するキュビズムと、複数人によって1つの事件が作られる構造。やはり、似ています。事件の構造と、オープニングのタイトルをシンクロさせているのだとしたら、面白い試みですね。
それでは、最後に『PSYCHO-PASS サイコパス 3』第4話を観て、気づいたこと・感じたことをまとめておこうと思います。
- 「大型輸送機墜落事件」と「ホテル襲撃事件」のプロットは「事故→事件」という流れが共通している。
- 間に挟む事件には「手がかりの機能」と「刑事を困らせる機能」の2種類がある。
- 灼と小宮カリナの信頼関係を描いているのには、作劇上の狙いがあるはず。
- 灼と小宮カリナを仲良くさせたのには、「インスペクター候補としてビフロストの情報を灼に提供するという展開を作るため」、「よりドラマチックな展開にするため」の2つの理由があるものと推測される。
- 今後、灼と小宮カリナは、監視官 VS インスペクターという構図で本格的に対立するかもしれない。
こんな感じで、今回のブログは短めにまとめてみました。
正直、紹介したい内容はたくさんあるのですが、毎回10,000字書くのに限界を感じたので、少し減らしてみました。 とはいえ、ミステリーの構成を抽出できたのは、自分としてもかなり収穫だったので、我ながら有益な記事になったんじゃないかなと思います。
それでは、今回はこの辺りでお開きにしましょう。
次回のレビューでまたお会いしましょう。さようなら~~(^^)/
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- 『PSYCHO-PASS サイコパス』の関連記事については、以下をご覧ください。