「カーワウッソー」
ようやくカワウソ陣営の親玉が姿を現しましたね。しかも、コミカルな感じで。しかも、黒田崇矢さんの声で。あのフォルムで、あの声で、あのキャッチーなセリフを吐かれてしまうと、いろいろ混ざってきて、純粋に悪役に見えなくなってくるから不思議です。憎めない悪役と言えばいいですかねぇ。
とはいえ、口も目も動かないのは不気味ですよね。口や目は表情を作る重要な部分ですから、そこを描かないということは、このカワウソには、「情」がないことを意味しているように思います。実際、人の生き死にがかかっている状況で、カワウソはずっと同じ調子で話しています。冷酷さを具現化した姿なのかもしれませんね。
『さらざんまい』は第5話以降、カッパ陣営とカワウソ陣営の動きを交互に追っていくスタイルで話が展開しています。そして、どちらも内部の人間関係がこじれています。カワウソ陣営はレオとマブの関係性がこじれていますし、カッパ陣営では現在、一稀を中心に関係性がこじれています。一稀のことを想う燕太の気持ちが制御できなくなっている感じですよね。カッパ陣営もカワウソ陣営も、明確な敵がいながらも、内側の葛藤に苦しんでいるわけです。
第7話はとくに燕太の葛藤が目立ちましたね。今回はその点にも触れつつ、マブやカワウソについて中心に考察していこうと思います。
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- 『さらざんまい』第7話「つながりたいけど、裏切りたい」のあらすじ
- 『さらざんまい』第7話の考察① 本物になれない人形焼きのマブ
- 『さらざんまい』第7話の考察② アンチ科学技術のテーマ
- 『さらざんまい』第7話の考察③ いつの間にか2羽になったウミネコ
- 『さらざんまい』第7話の感想・ネタバレ考察のまとめ
『さらざんまい』第7話「つながりたいけど、裏切りたい」のあらすじ
川嘘交番ではメンテナンスを終えたマブと、レオが食事を摂っていた。レオと同じカップ焼きそばを食べようとするマブ。しかし、レオはマブに怒りを見せる。「そういうのやめろよ。んなもん食っても意味ねえじゃん、お前」。そうその通り。マブは食事をする必要がない体。今のマブは一度死んだマブをマネて作られた人形。本物のマブはカッパ王国襲撃の際に死んでいたのだ。レオは、そんな偽物のマブを受け入れられずにいた。
同じころ、春河や家族とのつながりに気づいた一稀は、ようやく以前の笑顔を取り戻していた。笑顔だけではない。サッカーも再開した。燕太や久慈とパスを回しながら「3人一緒のほうが絶対楽しいって」と言う一稀。まんざらでもない久慈。3人の仲は良好に見えた。
しかし、後日、いつもの広場には、大量のゴミと落書きの数々。誰かのイタズラなのは明白。けれど、誰がやったのかは分からない。呆然とする3人だったが、久慈が率先してゴミ掃除を提案し、3人は力を合わせて片づけを済ませる。けれども、翌日も同じようにゴミと落書きのイタズラ。いったい誰の仕業なのか分からぬまま、3人はもう一度片づけを開始する。
ケッピのもとに訪れた3人は、希望の皿が盗まれている事実に直面。「カワウソ帝国の仕業」と考えるケッピ。そんなとき、街ではタマが飛んでいく事件が発生。タマゾンビを倒すために、一稀、燕太、久慈の3人は欲望フィールドに出向く。タマゾンビを倒し、さらざんまいを開始したとき、燕太の意識が一稀と久慈に共有される。そこには、燕太がゴミをばら撒いている姿と、希望の皿を盗み出している様子があったーー。
『さらざんまい』第7話の考察① 本物になれない人形焼きのマブ
第7話の冒頭、マブとカワウソの何やら怪しい会話が地下街に響いていました。前回「メンテナンス」と言っていたのは、このことでしょうか。
印象的なのは、なぜかカワウソの人形焼きが焼かれているところ。人形焼きとマブを交互に映していることから、マブ=人形という意味を読み取ることができます。そういえば、第6話でもレオが人形焼きを食べていました。あれは第7話の伏線になっていたわけですね。
さて、話をマブに戻しましょう。カワウソ帝国の技術力によって再現された偽物の人格。メンテナンスを受けないと生きていられない偽りの存在。それが、いまのマブです。事実、カワウソのセリフのなかにも「マブ、哀れで美しい私の人形」という言葉があります。マブはカワウソの操り人形なのかもしれません。
しかし、不思議なのはマブの「私は早く望まれた私になりたいのです」というセリフ。人形にしては情緒を感じさせる言葉です。しかも、「望まれた私」と言っていることから分かるとおり、マブは「望まれた存在」になりたいと思っています。
では、誰に望まれたいのかといえば、それはおそらくレオでしょう。主従関係で言えば、間違いなくカワウソですが、マブの言動を見る限りレオに認められようとしている節があります。
例えば、朝食のとき、機械仕掛けのマブには食事が必要ないのに、わざわざレオと同じカップ焼きそばを食べたりしていることからも、レオに気に入られようとしているのは明白。マブはレオに必要とされたいのかもしれません。
それでも、レオに認められていない辺りがマブの可哀想なところです。
マブ「それでも、大切にしたい人がいる」
レオ「んなこと、とっくに知ってるよ」
マブ「レオ、私は……」
レオ「もういい!それより、昨日見たことは絶対に言うなよ」
(引用:『さらざんまい』第7話より)
マブの言う「大切にしたい人」というのは、おそらくレオのことを指しているのでしょう。マブは続けざまに「レオ、私は……」と話そうとするものの、レオに「もういい!」と遮られてしまいます。
この「……」には何が入るのでしょうか。おそらく「レオ、私はお前を大切に思っている」みたいな言葉が入ると考えられます。しかし、レオは機械仕掛けの偽物マブの口から、そういうセリフを聞きたくないのでしょう。
レオにとって、蘇ったマブは偽物でしかなく、そのマブから「愛情」を向けられることに対して、「偽物のくせに!」という憤りを感じているのだと思います。
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とはいえ、本物そっくりに造られたマブはレオに対して、本物同様の愛情を持ってしまっている。だからこそ、「望まれる私になりたい」という「欲望」を抱き始めたのでしょう。
ただ、不思議なのは、以前「個人の感情など、優先してなんになる」と言っていたマブがどうして急に感情を持ち始めたのか?この点が謎ですね。
カワウソの策略なのでしょうか?メンテナンスのときに、マブの機械仕掛けの心をいじくったのでしょうか?この辺りは、まだもう少し物語を追って見ていく必要がありそうですね。
『さらざんまい』第7話の考察② アンチ科学技術のテーマ
第4話の考察でもお話したように、『さらざんまい』には、やはり科学技術などの過度に発達した文明に対する批判が込められているようです。
マブがレオから拒絶されていることからも、科学技術に対するアンチテーゼが読み取れます。マブはカワウソ帝国の技術力によって再現された人格ですから、それを否定する行為には、科学技術に対する批判の意味合いも含まれています。歌詞が変わった「カワウソイヤァ」にもこうしたメッセージが込められていました。
「支配された真実の心、切り裂いて」
「触れた熱さと裏腹の紛い物」
(引用:『さらざんまい』第7話より)
これはマブの現状を歌ったものだと考えられます。マブはカワウソに心を支配され、カワウソの科学技術で蘇ったが、体温とは裏腹に真実の心がそこにはないわけです。「紛い物」とまで言ってますからね。ここには、アンチ科学技術のメッセージが入っているように思います。
それと、カワウソの姿にもテクノロジー批判の精神を感じました。カワウソは白衣姿で、内側のカワウソ自体は真黒。これは科学技術の表と裏を感じさせるデザイン。さらに言えば、この色彩はスカイツリーと似ています。厳密に言うと、『さらざんまい』に出てくるスカイツリーと似ているのです。
スカイツリーは外側が白色。そして、その内側には真黒な欲望が溜められています。カワウソの色合いとスカイツリーの色合いは重なるのです。これは科学技術のメタファーだと考えることもできます。
科学技術は一見、人の暮らしを豊かにする明るいものに思えるが、その原動力は人間の真黒な欲望だと解釈することが可能です。
カワウソの持つ技術は明らかにオーバーテクノロジー。人の人格を造っているわけですからね。けれど、バベルの塔になぞらえてスカイツリーを眺めてみると、スカイツリーもまたオーバーテクノロジーの象徴だと考えられます。カワウソの存在とスカイツリーはやはり同じメッセージ性を持っているように思えてなりません。今後、科学技術がどう描かれるのか、非常に楽しみです。
『さらざんまい』第7話の考察③ いつの間にか2羽になったウミネコ
ゴミをまき散らしたのも、壁に落書きをしたのも、希望の皿を盗んだのも、燕太が犯人だったなんて予想外でしたね。第6話で、いったん大団円を迎えた感じはあったので、3人の仲は良好なものとばかり思っていましたし、ケッピが「カワウソ帝国の仕業かも」みたいなことを言うから、見事にミスリードされましたよ。
燕太の犯行の動機は「久慈に対する嫉妬」ですよね。一稀が久慈のことを「トオイ」と呼び捨てにしたり、希望の皿を使って久慈の願いを叶えようとしたり、久慈にばかり構っているから「僕にも構ってよ!」という、いわゆるかまってちゃんの状態になってしまったのでしょう。
汚したり、落書きしたり、盗んだりする行為は、子どもが親の気を引くためにやる、かなり幼稚なかまってちゃんアピールなんですが、燕太はあまりの嫉妬に幼児退行してしまったみたいですね。
3人のなかに裏切り者がいるというのは、ときどき映される鳥の数にも示されていました。久慈が「もうお前らとサッカーはできない」と言ったとき、電灯のウミネコらしき鳥は3羽いました。ただ、この時点で3羽のうち、1羽は別の方向を向いています。
次のシーンの久慈が「兄さんは仲間に裏切られた」というセリフのとき、電灯のウミネコは2羽になっています。
これは一稀、燕太、久慈の関係性を表現していると考えられます。しかも、ちょうど「兄さんは仲間に裏切られた」のセリフと同時に、ウミネコが2羽映されるんですよ。「裏切られた」と同時に。今回、3人のなかの裏切り者が誰かと言えば、燕太ですよね。ウミネコの数とセリフの両方で、このなかに裏切り者がいるということを表していたんですね。
『さらざんまい』第7話の感想・ネタバレ考察のまとめ
さて、最後に『さらざんまい』第7話で気づいたことについて、まとめておきましょう。
- 機械仕掛けのマブの心と、本物のマブを求めるレオとの軋轢
- 新しい「カワウソイヤァ」の歌詞には、マブの現状が記されている
- カワウソの白と黒のデザインは、スカイツリーの外壁と内部に溜まった欲望を暗喩しており、科学技術の持つ光と闇のメタファーでもある
- 燕太の裏切りをウミネコの数で表現している
燕太の裏切り行為に対して、一稀と久慈がどんな反応をするのか楽しみですね。久慈はノーリアクションぽいですが、一稀は怒りそうですね。なにせ、久慈のことを希望の皿で本当に助けようとしているし、「さらざんまいでつながった僕たち」と言っていることから、燕太に対して信頼を寄せていたはずなので、裏切られたことへの憤りも大きいはずです。さっそく第8話を観て、すぐに放映される第9話に備えようと思います!
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『さらざんまい』各回の考察は、以下の記事でご覧いただけます。